[003]2026.03.08log

管制塔とビルダー

AIに仕事をさせる構造を作る

AIにコードを作らせることができるのは分かった。問題は「どのAIに、どのやり方で」指示するかだった。

選択肢が二つあった。一つはClaude Codeというターミナルベースのツール。黒い画面に文字を入力するとAIがファイルを作り、コードを実行し、エラーが出れば自分で修正する。もう一つはCoworkというデスクトップアプリ。同じAIだがマウスでクリックできる画面がある。

直感的にはCoworkが楽に見えた。クリックできるから。ターミナルはまだ馴染みがなかった。しかし直感を信じる前に、AIに聞くことにした。「このプロジェクトにはどちらが良いか比較して。基準は三つ——どれだけ関与が必要か、成果物の完成度、かかる時間。」

AIに自分自身を評価させるのは奇妙な体験だった。そして返ってきた答えは率直だった。

Claude Codeが圧倒的に有利だという。理由は単純で、ターミナルではコードを書き、実行し、エラーを見て修正するサイクル全体をAI単独で回せる。Coworkはファイルを作れるが実行はできない。料理はできるが味見ができないようなものだ。

そこで構造を分けた。

チャット画面は「管制塔」になった。全体設計、進捗追跡、エラー原因分析を行う場所。ターミナルのClaude Codeは「ビルダー」になった。管制塔で下した決定を実行する場所。

この構造が自然に浮かんだのは、自分の役割が明確になったからだ。私は飛行機を操縦しない。飛行機(コード)を操縦するのはAIだ。私は管制塔に座って「滑走路17番に移動して」「高度を下げて」と指示する。そしてレーダー(チェックリスト)を見ながら、飛行機が計画された経路を辿っているか確認する。

役割を分けると結果が良くなった。管制塔では「なぜ」と「何を」だけを扱い、ビルダーでは「どうやって」だけを扱う。以前は「これもやって、あれもやって」を一箇所で混ぜて要求していた。設計を聞きながらすぐコードも頼み、エラーが出たら同じ文脈で直してくれと。成果物の一貫性が落ちた。

私がPMでAIが開発者だという比喩は、この時点で定着した。より正確には、AIは優秀な新人だ。指示された仕事は速く正確にこなす。しかし指示されていない仕事を察してやったり、プロジェクト全体の方向を決めたりはできない。そして時々、頼んでいない機能を先に作ってしまう傾向がある。新人特有の熱意とでも言おうか。だからビルドプロンプトに「このフェーズで認証コードは絶対に書くな」といった禁止条項を入れる必要があった。

退勤後にノートPCを開くと、まず管制塔を開く。昨日どこまでやったか確認する。今日やることを決める。それからターミナルを開く。ビルダーに仕事を出す。

この順序が習慣になると、時間が少ないことがむしろ利点になった。夜の二、三時間しかないから、「今日はこれだけ」という範囲が強制される。範囲が狭ければAIへの指示も明確になる。明確な指示は明確な結果を生む。

時間が少なければ失敗する余裕も少ない。だから夜しか時間がない人はむしろ戦略的になる——ということを、この頃知った。


🔧 このエピソードの技術用語解説

ターミナル(Terminal) コンピュータに文字で命令を出す黒い画面。マウスの代わりにタイピングでファイルを作り、プログラムを実行し、サーバーを動かす。

エージェント(Agent) ユーザーの指示を受けて自ら計画を立て、実行し、結果を確認するAIプログラム。単なるチャットボットと異なり、ファイルの読み書きやコマンド実行、エラーの自動修正まで行う。

CLI(Command Line Interface) ターミナルで文字操作する方式。対義語はGUI(Graphical User Interface)、つまりマウスでクリックする方式。

デバッグ(Debugging) コードのバグ(エラー)を見つけて修正する過程。虫(bug)を捕るという意味に由来。バイブコーディングではAIがエラーログを読んで原因を追跡するため、コードが読めなくてもデバッグが可能。